神職になるには

神職になるには

 最近の神社ブームの影響もあるのか、「神職になりたい」という人が増えてきたように思います。ただ、実家が神社というならともかく、一般の人にはあまりわからない世界ですので、神職自体についての情報がなかなかありません。そこで、神職になることについての私見を述べてみたいと思います。
 神職になることについて。このページを見る前に、ネットで他の情報(例えば、北海道の西野神社さんのブログhttp://d.hatena.ne.jp/nisinojinnjya/など)をある程度は調べているだろうという前提でお話ししています。また注意して頂きたいのですが、ここに書いてあることはあくまでも筆者の意見ですので鵜呑みにせず、一つの見方とお考え下さい。(ネットの情報はすべてそうといえますが)
 必ず他からも情報を取るようにしてください。ネットで得られる情報は限りがあります。

 神職資格を取る

 神社本庁というのは宗教法人ですから、神社本庁の神職資格といっても民間資格になります。よって、自分で神社を建てて装束つけて神職だと名乗ればそれでも神職と言えます。(さすがにそんなことができる人はなかなかいませんが。また、最近は宗教法人格を取得するのも大変です。)

 現在は事実上神社本庁が発給している神職資格が神道界では基本となっています。ですから、神職になるには神社本庁の神職資格を取得することになります。
 他の団体、あるいは教派神道の教団で各自発給している資格もありますが、神道の勉強や必要な祭式などを身につけるために神道系の学校に行くと、神社本庁資格を取得できますから、そちらも持っている、という人も多いです。筆者は大学卒業後、社会人ののち國學院大學神道学専攻科を卒業して神社本庁神職資格を取得し、また別途、出雲大社教布教師の資格を取得しています。

 神社本庁の神職資格を取得するためにはいくつかの手段があります

 (1)神職取得課程のある大学で取得する(4年)
   國學院大學、皇學館大学
 (2)神道学専攻科で取得する(1年、要:大学卒業)
   國學院大學、皇學館大学
 (3)神職養成所で取得する(2年、要:高校卒業、年齢制限あり)
   神宮研修所、京都國學院、大社國學館など
 (4)神職養成講習会(國學院大學、皇學館大学など)で取得する(1ヶ月程度)

 上記の(1)から(4)について、入学に「各都道府県の神社庁の推薦書」が必要とされるものがあります。(2)の國學院大學の専攻科と(4)の神職養成講習会です。(皇學館大學の専攻科は推薦書必要なし)

 (4)の講習会が一番短期間で手っ取り早くみえますので、そう聞くと「じゃあ神社庁に行って推薦書もらってくればいいんですね。行ってきます。」と気軽に言う人もいます。が、どの世界でも見ず知らずの人間にいきなり推薦書を書くことはありません。基本的には各神社の宮司から推薦が来て、それを神社庁長が承認する、という形になります。ですから、どこかの宮司さんと知り合いになって推薦状を書いてもらうくらいに認められなくてはなりません。

 そしてこの講習会は、基本的にはすでに勤務する神社が決まっている人、あるいは神職子弟でいずれは神職に就く、あるいは実家の神社の手伝いをする人、そういう人達が対象です。また、神職養成所の一つである大阪國學院に通信課程がありますが、これも神社での仕事で緊急に資格が必要な人のためのものです。神社に縁のない人が現在の仕事をしながら通信教育で資格を取れるかも、と思われたかもしれませんが、そのためのものではないのでご注意下さい。

 奉職先を見つける

 神社界では就職ではなくて「奉職」と呼びますが、学校に求人が来て在学中に応募することになります。上記のように、誰でも簡単に神職資格が取れるというわけではありませんので、奉職先としてそれなりに求人数はあるようです。ただ、それは希望の神社にみんな奉職できる、ということではありません。
 一般企業の就職活動において大きな会社、有名な会社に志望者が殺到するのと同じで、やはり大きな神社や有名な神社、また都市部にある神社は競争率が高くなります。地方の神社や給料の安い神社は人気がありません。もう一つ注意すべきは、人がすぐにやめるから毎年採用するという神社もあるということです。そんなに大きくもないのに毎年求人していたり、複数人募集していたりする神社は、たまたま定年の人や実家の神社を継ぎに帰った人が多かった可能性もありますが、問題のある神社であることもあります。このあたりは一般企業と変わりません。

 中途での採用はほとんど縁故、つて、を通して行われるようです。ですから、無理に(例えば宮司さんに推薦書だけ書いてもらって、奉職先は自分で探しますといって)講習会に出て神職資格を取ったとしても、つてがなければ、奉職はなかなか難しいでしょう。
 中国地方のある神社で、地鎮祭の全国展開(?)をするために神職、というか未経験者を募集している神社があるそうです。詳細をよく知りませんが、どうなんだろうかと心配になります。一般企業でいつも求人、しかも未経験者でも募集している会社は離職率が高いですが、同じことが言えるかもしれません。

 奉職活動で多少不利な人

 奉職活動において、多少不利なものがあります。ただ、不利だからと言って、希望の神社にまったく奉職できないということではありません。

・非社家(一般家庭出身)
 神社界特有のものに、社家(しゃけ)出身かどうか、という要素があります。ここでいう社家とは神職子弟とお考え下さい。(例えば、祖父までは代々神職だったが今は親兄弟親戚に誰も神職はなく知り合いもいない、というのはここで言う社家には当たりません。)
 神職は全体の人数も少ない狭い世界で、また代々神職という家や親が神職という人が多いため、いろんな縁があることが多く、どうしても採用は神職子弟を優先することになります。また、社家出身の人の中には、いずれ実家に戻る人も多いです。年齢が高くなると給与が高くなるので、その辺も考慮にいれる神社もあります。
 ですから、一般家庭の出身者は比較的不利になります。(大きな神社に入ることがまったく無理ということではありません)

・女性神職
 奉職について、女性は多少不利になります。これを言うと女性差別だ、という非難が出てきそうですがそうではありません。というのも、長い間、相当の昔から神職は男性のみで、女性も神職をするようになったのは実に第二次世界大戦以降のことだ、という歴史があるためです。そのため、例えば小さな神社だと巫女もいないので女性専用の更衣室すらなかったり、ということもあります。また社務には力作業的な業務も多く、宿直もあったりしますから、女性の採用をためらうことになりがちです。
 ただ、女性の神職については、少しずつ増えてきています。先輩が奮闘していますから、今後徐々に変わっていく可能性もあります。

・30歳以上
 はっきり言ってかなり不利なのが、高年齢者です。神社界でもそうですが、現在の日本社会は年齢給の要素が強く、高年齢の人を雇うと年齢相応の給料を払わなければなりません。かといって、例えば23歳の2倍給料もらった50歳の人が2倍仕事をできるかといえば、単純にそうではありません。(経理など特殊技能は別ですが。年齢給は現在の日本社会全体の大きな問題ですが、国際競争の時代になって、これから序々に崩壊していくとは思います。)
 ということで、神社としても同じ一人採用するなら若い人間の方がいい、ということになります。30歳と書きましたが、30以下ならセーフ、以上ならアウトというはっきりしているわけではなく、大体の目安です。30以下でも25以下のより若い方がいいでしょう。
 30歳以上の人は、入学前に奉職先の宛てを見つけてくる方が無難です。そうでなければ在学中に必死に探すということになります。入学と同時に人脈を作って必死に奉職活動をしなければなりません。

 神職の待遇

 神社は現在は宗教法人ですが、何か公的なものという意識が神社側にも一般の人にもありますので、神職はなんとなく公務員のようなイメージを持っている方も多いと思います。そういう面もありますが、待遇に関しては正直なところ公務員ほど恵まれていません。

 給与はもちろん高くありません。公務員以下のところも多いです。驚くかもしれませんが神社によっては月給13万円とかもあります。(神社はあまりお金がないのです…)
 それから違うのが休みはかなり少ないことです。大きな神社でも私の知る範囲で神職が完全週休二日のところはあまり聞きません。大祭の前だとしばらくぶっ続けで仕事ということもあります。
 もっとも、待遇は神社によってかなり違いはあります。

 また、税金から必ず給料がもらえる公務員と違って、神社はどこかからお金を得ないといけません。安定していると思われるかもしれませんが、熱心にお金を出してくれるのは戦前生まれの人とかが多く、今後はどうなるでしょうか。当然各神社も努力していますが、やりすぎると商売みたいになってしまって、これもいけません。

 公務員と似ているところもありますが、給与、休日、安定を重視するだけの人にはお勧めできない仕事で、やはりやる気がないと続きません。

 神職に向いていない人

 こういう方は残念ながら神職に向いていないだろう、という人もいます

・保守的な空気が大嫌いな人
 公務員的なところがあると言えば、保守的なところかもしれません。ここでいう保守は政治の保守、革新ではなく、「昔からの伝統を守る」「古くからのやり方を踏襲する」といったことです。それは良いことではあるのですが、端から見れば非効率、非合理と思えることもあるかもしれません。それを変えたらいいんじゃないですか、と言っても、いろんな現実があって、簡単には変えられません。どの世界でも多かれ少なかれあることですが、そういうことは絶対に我慢できない、という人には難しいかもしれません。

・人間関係を構築するのが苦手な人
 企業などで人間関係をうまく築けなかった、あるいは嫌だったという人が、神職なら黙々と祈ってあとは本でも読んでればいんじゃないか、とか想像する人がいるらしいです。が、それは誤りです。宮司始め他の職員、そして氏子さんなどいろんな人とのつきあいが必要になります。
 神社は企業で言えば小企業か、あるいは家族経営の零細企業、個人商店レベルの組織です。神職といえども人間の世界ですので、企業社会で人間関係をうまく構築できなかった人が神社界ではうまくやっていける、という保証はありません。日本人の組織ですから、どこもそんなには変わらない、ということでしょう。

・霊感がある(と称する)人
 最近のスピリチュアルブームの影響か、霊感があると思う人も増えてきたようで、中には神職を志望する人もいるようです。かの江原啓之氏は國學院大學別科神道専修(國學院大學の神職養成課程)を卒業され、実際に神社にも奉職されています。ですから、霊感があるかは私にはわかりませんが、江原氏は神社参拝のマナーなどは非常に正しいことを言われていると思います。
 そのような例もありますから、個人的には薦めたい気持ちもないわけではありませんが、正直お薦めできません。というのもまずは霊感が必要とされる仕事がありません。霊感占い等は普通神社ではしません。また、神職で霊感がある人はほとんどいませんから、その人だけあっても困ります。「この本殿からは何も感じません。ここに神さまはいません」とか言われても迷惑なだけになります。あと、これは私の限られた経験の話ですが、霊感があると言う人は、精神的にムラのある人も多いような気がします。「今日は気分が悪いので休みます」というのを何度もされると、周りに迷惑がかかってしまい、本人も居づらくなってしまいます。
 霊感があるという方は神社界ではなく、霊能者や占い師といった人に、弟子という形で付く方がいいでしょう。そういう職業の人が「神職資格」というのをプロフィールに書くと箔が付きそう、と思われるのかもしれません。ただ、そうすると本業の霊感判断や占いでトラブルが起きた時に、神社本庁など資格発給元にクレームが行って問題になる可能性もあります。そもそも霊能者や占い師は当たることが重要であって、当たるなら口コミで勝手に人が集まります。その力を磨くことが重要であって、箔は必要なく、かえって制限受けるだけではないかと思います。

 神道を学びたい、のが主な理由の人

 神職を目指すというより、神道について学びたいから、という動機の方が強い人もいるかもしれません。そういう人には大学(國學院、皇學館)に行くのがよいでしょう。大学を卒業されているのなら学士入学もあります。

 そこまでは、というのでしたら、平成24年より「神社検定」が始まりました。
 http://www.jinjakentei.jp/
 そんなに特典があるわけでもないようですが、とにかく目標があると勉強のしがいがあるのではないでしょうか。ぜひ、お薦めいたします。

 神道界の役に立つには

 神社や神道界の役に立ちたいので神職になりたい、と考える真面目な人が、特に若い人達の間で、増えているように思います。これは大変喜ばしいことだと思います。ですが、神道界の貢献できるのは神職として働くことだけではありません。
 実業界で成功し、そして神社に多額の寄進をするという道もあります。個人的にはむしろそちらの方が、効果という点では大きいと思います。

 例えば、松下幸之助氏は「神道大系」という神道の資料を集めた大資料集の制作を援助しました。これによって神道研究者はどれほどの恩恵を受けることか、はかりしれません。
 そこまではいかなくとも、神さまのお役に立つのは神職だけではありません。これを読んでいる人に高校生以下の人もいるかもしれませんが、いろんな道も考えてみるのも良いと思います。

 最後に

 さて、ここまで読まれて、「なんかがっかりした」とかいう人もいるかもしれません。敢えて、わざと厳し目の話を展開させてもらいました。なんでもそうですが、あまりに期待がふくらみすぎると、現実を見て失望することもありますので。

 昨今の厳しい雇用情勢の中で、「資格」と「新卒」というマジックワードが二つもあるため、もしかしたら安直に神職養成の学校に入ろうとする人もいるかもしれません。が、結局奉職できなかった、あるいは奉職したのはいいが、考えていたのと違ったのですぐにやめてしまった、とかいうのでは時間とお金の無駄になってしまいます。そういう悲劇はなるべく起こらないように願っています。
 (それが実はこの記事を書いた一番の理由なのです。)

 また、神社界にまったくつてがないので、どうしていいかわからない、と困っている人もいるでしょう。個人的に思う打開策は、まずは近くの神社の神職と知り合いになることだと思います。ただ、中高生ならともかく、大人がいきなり「神職になりたいんですが」と神社に言ってきても、対応は難しいですので、まずはお祭りなどの手伝いをすることでしょうか。こういうのは大きな神社ですとなかなか一人一人に対応するのは難しいので、小さい神社の方が都合がいいですね。

 私も一般企業でサラリーマン→会社立ち上げて経営ののち、という経歴で神職になっていますが、大変やりがいのある仕事だと実感します。なんだかんだ言って神職は真面目な人が多く、みんな頑張って神明奉仕に励んでいます。やる気のある人にはぜひ神道界に来て頂きたいと思います。

※質問や相談がある方はお問い合わせページからご連絡ください。

(2016/2月追記)
 資格にはいろいろあります。難易度の高いものの中には資格取得即仕事がある、というものがありますが、神職資格はそうではありません。
 例えば、宮司が一人の小さな神社で、誰かお祭りの時などに神職として手伝ってくれる人がほしいと思ったとします。候補者が二人いて、
 Aさん:神職資格を持っているが、全く面識のない人
 Bさん:神職資格を持っていないが、よく知っている人
二人のやる気などが同じだったとすると、間違いなくBさんを選択します。Bさんに神職資格を取りに行ってもらえばよいからです。小さな神社の手伝いでもこれですから、大きな神社で資格を持っているがよく知らない人を中途で採用することはほぼありません。
 特に30歳以上の方で資格を取れば手伝いくらいはできるのではないか、と思われる人がいますが、それも難しいとお考えください。資格という言葉を大きく見すぎないでください。神社関係者と知り合いになって、神職としてやってくれないかと話がきて、やっとなれる感じです。つまり順番が逆なのです。

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<このページの筆者>
 中島隆広 : 出雲大社紫野教会、教会長
昭和46年京都府生まれ。名古屋大学経済学部卒業、会社員の後、パソコン部品のインターネット通販の会社を起業して経営する。会社売却の後、國學院大學神道學専攻科に入学し、神主となる。

★教会長中島の本が出ました!
 日本人が伝えてきた心、そして生き方を、神道、神さまの話を中心としつつ、語った本です。相当な時間を掛けて作り上げました。ぜひ一度お読みください。

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